ヒルデガルト・フォン・ビンゲン  ラベンダーと「調和の医学」を伝えた12世紀の修道女【1】

ヨーロッパで真正ラベンダー(ラヴァンドゥラ・アングスティフォリア)の薬効や育て方を広めたのは、ドイツ自然療法の母と呼ばれるヒルデガルト・フォン・ビンゲンです。
「ビンゲンのヒルデガルト」とも呼ばれています。

12世紀の修道女であり、ハーバリストでもある、このヒルデガルトについてお伝えします。

彼女は、ラベンダーを「純粋な性格を維持するために」使うことを勧め、蒸留してラベンダーウォーターを作っていました。

そんないわれから、アロマやハーブに親しんでいる方は、名前を聞いたことがあるかもしれませんね。

ヒルデガルトは小さなころから、体調のすぐれない子供でした。

数え年の5歳ごろから、おそらく片頭痛に苦しんでいました。片頭痛は遺伝の影響もありますが、ストレスが関係することもあります。

貴族の家に生まれた第10子で、おそらく母親から離されて乳母に育てられていたのでしょう。乳母は単なるベビーシッターではなく、子供を教育する勤めもありました。この少女は、もしかしたらそんな生育環境に合わない繊細な子供だったのかもしれません。

当時の中世ヨーロッパでは、7歳を過ぎると親元を離れ、他家で奉公をしながら教育を受けることがよくありました。ヒルデガルトも貴族の家に生まれましたが、8歳のとき、親戚にあたる伯爵家のもとへ預けられます。

その家の末娘ユッタは、高い教育を受けた女性で、のちに修道女となる人物でした。

ユッタが修道院に入ることになったとき、ヒルデガルトもまた、彼女とともにその道を歩むことになります。

ユッタは、外界と隔てられた小さな部屋で祈りの生活を送り、そのそばでヒルデガルトは、ラテン語を教わったり、編み物や縫い物を学んだりしながら育っていきました。

ユッタは、親しみやすく、頭の良い人で、皆から好かれる人でした。
ただ非常に禁欲的な人だったようです。過度な断食をし(拒食?)、罪の懺悔のために体を傷つけるような歯のついた鎖を身に着け(自傷行為?)たりしていました。ユッタが若くして亡くなったときに、その体の傷を見たヒルデガルトは大きなショックを受けました。

50代になったとき、ヒルデガルトは自らの修道院を設立しました。
そこでは、かつてユッタが行っていたような、体を痛めつける禁欲的な行為は、決して許されませんでした。

修道院では、新鮮な野菜を育て、ハーブ園の植物は月の満ち欠けに合わせて収穫されました。彼女は、当時の伝統医学とハーブの知識を組み合わせて、新しい民間療法を生み出しました。

またヒルデガルトは、病を「調和の乱れ」ととらえ、健康には身体だけでなく心のあり方も深く関わっていると考えていたのです。

その修道生活は、比較的自由で明るいものだったといわれています。
それは神の創造による体と、健康を大切にする生活でした。ヒルデガルトは、髪・衣装・色彩・音楽を「神の喜び」「生命力」と捉えていました。健康のためには、シンプルな生活、適度な断食、良い睡眠を大切にし、歌うことも健康に良いと言っていました。(彼女は讃美歌を作曲をし、現存する最古のオペラ風作品も作りました)

そうした理由で、修道女たちには髪を長く伸ばすことも許されていた、
あるいは、「白は独身の女性にふさわしい色」として、白い服を着ることも許されていた、という一部の情報もありました。

さらに、ハーブやスパイスを使った食事新鮮な野菜、そして愛と感謝の心が、心身の健やかさにつながると考えていました。

ヒルデガルトは、幼いころから強い痛みに悩まされ、その痛みとともに光の幻視を経験していました。
その症状は、現代では重い片頭痛に伴う「閃輝暗点」(せんきあんてん)ではないかと考えられています。

このような病気のつらさを身をもって知っていたからこそ、彼女は治療や健康に深い関心を寄せ、ハーブや食事療法を研究し、医学的な著作も残しました。

片頭痛とともに光の幻視を経験する中で、ヒルデガルトは神からの教えがイメージとして現れるのを感じていました。


彼女はそれを「神からの言葉」として書き残し、
人も植物も神から与えられた同じ生命の力に生かされており、人は宇宙のリズムと調和して生きる必要があることが語られています。自然界にあふれる「生命力」をヒルデガルトは「緑の力(ヴィリディタス)」と呼び、それによって人間本来の自然治癒力を引き出そうとしました。その感覚はアロマテラピーと通じるように思えます。

幼いころから世俗から離れ、聖書を読み、自然と触れ合う生活をしていたヒルデガルトにとって、
世の中の不正や宗教界の不道徳は、強い嫌悪感を感じさせるものでした。それで、物質的な豊かさを求めてどん欲になっていた聖職者や、自分にとって都合のいいことだけを求める権力者たちを厳しく批判しています。

「純粋であれ」——
ラベンダーに託されたそんなメッセージは、修道女たちだけでなく、当時の乱れた指導者たちにも向けられていたのかもしれません。
そして変化の多い今の時代を生きる私たちにとっても、心を整え、自分に正直に生きるための助けとなってくれます。

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