ヒルデガルト・フォン・ビンゲン  ラベンダーと「調和の医学」を伝えた12世紀の修道女【2】

香りとは離れますが、ヒルデガルトの健康法について触れてみたいと思います。

ヒルデガルトは、厳格なベネディクト派の修道女でした。

「西欧修道制の父」とも呼ばれるベネディクトゥスは「祈り、働け」をモットーにした修道会を設立しましたが、当時のヨーロッパのパンデミックを経験したことから医療の必要性を感じました。
精神的な生活だけではなく、慈善の精神に基づいて看病、医療を重視する規則を定め、医学書を集めて薬草園を作り、医学書の研究を推奨しました。

このようにして修道院は看護や学術の中心となり、僧院医学というものが発達しました。

修道院で、薬草酒(リキュール)やビールが作られ、ジュニパーベリーを使った薬効のあるジン、ハンガリー王妃を若返らせたといわれるハンガリアンウォーターなども作られました。

修道院の薬草園では、マンドレイクなどの毒草も栽培され、外科手術の際の麻酔薬や鎮痛剤として使われました。「ロミオとジュリエット」の中で、ジュリエットが望まない結婚から逃れるために飲んだ薬がこのマンドレイクだと考えられています。

この修道院で、ヒルデガルトもヒポクラテスの提唱した四体液説本草学から学んだと考えられますが、独自の解釈も加えています。

ハーブ療法、食事療法、宝石療法、音楽療法などがありますが、自然との調和やバランスを大切にし、中庸であることを勧めています。

旬の野菜を食べること、温かい食事、労働と休息の大切さ、眠りの大切さ、断食によるデトックス、愛や感謝の大切さ、ストレス管理などを含めたホリスティックな健康法です。

彼女は、夏は小食がよいが、冬はたくさん食べても大丈夫と言っています。夏、暑いからと冷たいものを食べすぎるのもよくないこと、病気後の食事や断食後の回復食についても書いています。

またハーブの収穫は、月の満ちてくる期間(満月の少し前)に採取するのがよいともいいました。現代でもこのように天体のリズムや有機農法を取り入れた「バイオダイナミック農法」というものがあります。

心のケアについても語り、深い悲しみから出た怒りは、泣くこと、歌うこと、「緑の力」を取り入れることでバランスの取れた中庸へと持っていくことを勧めました。「緑の力」には、植物の香り(アロマテラピー)も含まれますね。

「人の魂は逆らう何かを感じ取ると、心臓の周りに霧が立ちのぼり悲しくなる。この霧が胆汁を掻き立て胆汁の苦みから怒りが生まれる」と書いています。

心理学で「怒り」「二次感情」と呼ばれます。その根底には、「不安」「悲しみ」「寂しさ」「恐れ」などの「一次感情(根本的な感情)」が隠れているからです。その感情がうまく表現できなかったり、認めにくいときに、それらの感情を隠すように「怒り」が表れます。そのことをヒルデガルトは見事に表現しているように思えます。加えて中医学の考え方では、怒りは肝臓に関わります。肝臓で作られる胆汁と怒りとを結びつけていることも興味深いですね。

彼女は、体の健康だけではなく、心理療法にも関心を持っていた人だったのでしょう。
生まれてすぐに乳母の手にゆだねられ、8歳でよその家に預けられ、そこで6歳年上のいとこであるユッタからラテン語の読み書きを学んだようです。

そしてユッタがアンカライト(生涯にわたって隠遁生活を送る禁欲主義の修道者)として狭い独房のような庵に住むようになったとき、付き添いとしてそこで食物や水を運びサポートしていました。ユッタはそこで孤独な生活を選び、若くして亡くなります。

その時代としては特別なことではなかったかもしれませんが、幼いころからのそのような経験は、ヒルデガルトにとってはACE(逆境的小児期体験)となったかもしれません。

こうした心の傷は、大人になってから心身の健康問題生きづらさにつながることが、現代では知られています。

聖書を読むこと、祈り、そして自然とのかかわりは心を癒す助けになったことでしょう。

そしてヒルデガルトには、生涯を支えてくれる友がいました。指導役として出会った同じ年の修道士ですが、幻視体験についても相談していました。彼は、その後秘書として、75歳で亡くなるまでヒルデガルトを支えました。

心から信頼できる人がいることも、人の心の癒しになります。ヒルデガルトは涙の癒しの力も感じながら、つらい過去を静かに手放していった人なのではないかと思いました。


当時の修道院では、祈りと労働、写本制作などに取り組み、肉食も禁止するような禁欲生活が推奨されていました。断食中の栄養の不足をビールで補うことが許されていましたが、空腹にビールというのは、心身への影響が心配です。

五感を楽しむことも快楽であり良くないといわれていた中で、ヒルデガルトは、目で色彩を感じ、肉と野菜とハーブの栄養豊かな食事で味覚を刺激し、香りや音楽を楽しみ、ハーブオイルを使った優しいマッサージを勧めました。

彼女の勧めたスペルト小麦(古代小麦)も、栄養価がとても高く、ビタミン、ミネラル、食物繊維、必須アミノ酸が豊富に含まれています。低GIで、含まれるグルテンは胃腸への負担の少ない消化しやすいものです。

持病の痛みを抱えながらも83歳まで元気に生きていた姿から、この健康法は確かに効果があるとわかります。

ヒルデガルトの自然療法が今でも愛されている理由が分かるような気がします。
自然を愛し、神様を愛し、そして自分も人も大切にして、中庸を求めた彼女の生き方は、今の時代を生きる私たちにも大切なことを教えてくれるように思えます。

ときには立ち止まる時間を作り、季節を感じ、自分の心と身体の声に耳を澄ませる。

もちろん頑張るときはありますが、自分を大切にすることを忘れないようにしたいですね。

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