
精油に関してネット検索すると、「効果・効能」という言葉が出てくることがあります。
もちろん、医薬品ではないものを、まるで薬のように「効能は~」などと表現することはできません。
薬と精油の「作用」としての考え方は全く違うものなのです。
医薬品の多くは、特定の症状や病態に対して、単一または限られた有効成分を用いて作用させるよう作られています。効果が明確で、用量も厳密に定められているのが特徴です。
一方、精油はまったく異なります。
ひとつの精油の中に、数十から多いものでは数百種類の成分が含まれており、それらが同時に、相互に影響し合いながら働きます。
精油は、単一成分で作用を説明できるものではなく、極めて複雑な「成分の集合体」なのです。
一つの成分が、ある種の効果をもたらすと言えるものもありますが、明確にできない複数の精油成分が合わさって、一つの効果をもたらす場合もあります。
その精油の働きを特徴づける成分は、たくさん含まれている成分ではなく、実は微量しか含まれていない成分が大きく影響しているという説もあります。
ティートリーに見る、精油の「複雑さの力」
その特徴をよく表している一例が、ティートリー精油です。
ティートリーは抗菌作用のある精油として広く知られていますが、単一成分の抗生物質とは異なり、耐性菌が生じにくいといわれています。
興味深いのは、ティートリー精油に含まれる成分の中から、
「最も抗菌力が強い成分」だけを取り出して使用するよりも、精油全体として使った方が、抗菌力が高かったという報告があることです。
つまり、「どの成分が、どの程度、どのように作用しているのか」
完全には解明されていないにもかかわらず、全体として最適な働きを示しているのです。
ティートリーは、以前には、抗菌作用がとても高い精油として知られていました。
しかし最近では、単に殺菌力だけではなく、人が本来持っている免疫力を高めることで、効果が現れているのではないかとも考えられるようになりました。
この点も、精油の特徴と言えるでしょう。
ホルモンや血圧の作用が示す「一筋縄でいかない性質」
精油の作用が単純でないことは、ホルモンや血圧への影響を見てもよく分かります。
クラリセージは、伝統的に「女性特有の症状に役立つ精油」として使われてきました。
ところが近年では、女性ホルモンだけでなく、男性ホルモンにも影響を与える可能性が示唆されています。
また、ゼラニウムはホルモンバランスを整える精油として知られていますが、
女性ホルモンに限らず、男性ホルモンに関してもバランスを調整するということも聞いたことがあります。しかし、実際の真偽のほどはよくわかりません。
ローズマリーも同様です。
一般には「血圧を上げる作用があり、低血圧の人によい」と言われますが、
使用量や条件によっては、血圧を下げる方向に働く可能性も指摘されています。
ただ、どれだけの量を使うと血圧が上がり、どれほどであるなら血圧が下がるかについては、アロマセラピー研究者のロバート・ティスランド は、使用する人の体重も関係していて、使用量の判断はかなり難しいと説明されました。
グレープフルーツが教えてくれる「条件依存性」
ダイエット目的で使われることの多いグレープフルーツ精油も、
脂肪燃焼に関わる成分を含み、交感神経を活性化する作用が知られています。
動物実験では、確かに体重や脂肪の減少が見られた一方で、使用する時間帯によって結果が異なることも示されています。
精油は、「何を使うか」だけでなく、「いつ、どのような状態で使うか」が大きく影響するのです。
現在のアロマセラピーは、長い時間をかけて伝統的に受け継がれてきた使い方に加え、近年、化学的・生理学的に解明されてきた知見も取り入れながら行われるようになってきました。精油やその成分の研究が進み、その作用や働きかけが、より詳しくわかるようになってきています。

ホリスティック・アロマセラピーという考え方
一方で、精油は医薬品のように「一つの成分が一つの作用を担う」ものではなく、身体・心・感情といった複数の要素と関連した多角的な存在でもあります。
たとえば、インドシナ戦争の頃、ラベンダーは負傷した兵士たちのケアに用いらました。
傷の殺菌や抗炎症、鎮痛といった身体的なケアだけでなく、強い緊張や恐怖の中にある兵士たちの心を落ち着かせる目的でも使用されました。
このように精油は、「症状に対する処置」としてだけではなく、人の精神状態や内面に寄り添う存在ともなってきました。
介護や看護の分野では、人を見るときに、ケガや病気といった一部分だけでなく、その人全体を捉えることが大切だと考えられています。
真のケアや治療には、その人のライフスタイルや価値観、生き方まで含めて向き合う視点が必要だという考え方です。
同様に精油も、メディカルアロマという枠組みだけで捉えるのではなく、人の心や感性、目に見えない部分にも働きかけるものとして、その精神的・スピリチュアルに近い側面も大切にしていきたいと考えています。
精油に関する論文が多く発表されている今の時代ですが、最新の情報とともに、過去の歴史の中での言い伝えや、古代の書籍の内容も調べながら、精油について研究していこうとする人々もいます。
精油は、その成分や働きが非常に複雑であるゆえに、化学的・分析的な理解だけでは測りきれない側面もあると思うのです。
ですから人に対しても、精油に対しても、総合的(ホリスティック)な視点で向き合っていくことが、アロマセラピーに関わるものとして、望ましいありかたではないかと考えています。
